ヨーロッパで始めて磁器の焼成に成功したドイツのマイセン磁器製作所は、1710年の創業以来、300年を超える歴史の中で多くの魅力的な作品を生み出し、ヨーロッパ各国の磁器製造に大きな影響を与えてきました。透き通るような純白の素地に、華やかに絵付や装飾が施されたマイセンの磁器彫刻や実用器の数々は、18世紀以降、王侯貴族から現代に至るまで人々の心を魅了し続けています。
長い歴史の中で数々の名作を生み出してきたマイセンですが、黄金期ともいえる18世紀には、原型制作師のヨハン・ヨアヒム・ケンドラーや絵付師のヨハン・グレゴリウス・ヘロルトが活躍し、現在も大切に受け継がれる造形や色彩を作り上げました。そして、フィギュリン(figurine:人形)と称される磁器彫刻は、ケンドラーをはじめとする、各時代の原型制作師たちが優れた能力を発揮し、その造形のすばらしさから、高い評価を得るものとなりました。これらのフィギュリンは、18世紀、ロココ時代に宮廷で流行しました。主に貴族の祝宴において食卓に並べられ、会話を盛り上げるものとして人気を博したほか、室内飾りとして調度品などに据えられ、鑑賞されました。
産業化が進む19世紀は、万国博覧会が各国を代表する陶磁器製作所の作品発表の場となります。マイセンを追随してきた、フランスのセーヴルやデンマークのロイヤル・コペンハーゲンなどの他のヨーロッパ窯が、新たな装飾技法を生み出し躍進するなか、マイセンはあえて手仕事にこだわり、ロココをはじめとする過去の様式の復刻に力を注ぎます。そのため、19世紀に作られた人形は、マイセンを代表する彫刻家たちが活躍した、18世紀当時の雰囲気をたたえています。
本展は、小早川春信氏によって蒐集され、岐阜県現代陶芸美術館に寄贈された、19世紀のマイセン人形をはじめとする約100点のコレクションによって、その魅力に迫ります。様々な寓意を秘めた男女や愛らしく表現された子どものフィギュリン、繊細に作りこまれた大壺、華麗なセルヴィス(service:食器セット)などを通して、19世紀のマイセンで生み出された、鮮やかで優雅な詩情あふれる世界をご紹介します。